白洲正子氏が憧れた木造十一面観音坐像

日吉神社の木造十一面観音坐像

 日吉神社の境内にある収蔵庫には、木造十一面観音坐像二対、木造地蔵菩薩像一体、石造狛犬一対が収納されている。これらは全て国の重要文化財に指定を受けている。その中の22.6cmの木造十一面観音坐像が、白洲正子氏がその著書『十一面観音巡礼』の中で「私のあこがれていた観音様で、想像していた以上の美しさに、思わず深いため息をつく」「今まで見たどの仏像より日本的で、彫刻も、色彩も単純化されている」「これはあきらかに神像である。そういって悪ければ、日本の神に仏が合体した、その瞬間の姿をとらえたといえようか」と評したものである。

 この像は、頂上仏面と左右前膊部(肘から手首まで)以外は、檜の一材から掘られた一木造の坐像である。頭上の仏の顔は、荒削りで目鼻を墨で描き、丸みをおびた十一面観音そのものの顔も、ごく浅く目鼻を刻み、眉・目・髭を墨で描いている。また、衣文や細部を省略しているなど簡素な造形である。現在は、右手膊部より先は失われているが、像表面の彩色はある程度残っている。制作は平安時代の11~12世紀頃で、神像であろうと考えられている。

 この像に対する評価としては、「神仏習合の信仰の形の一典型を示しており、従来の西欧風の価値観からは注目されにくい造形を魅力的に伝えている点で、一方の雄ともいうべき像である」(『藤森 武写真集 日本の観音像』)という考え方も示されている。

 なお、本地垂迹説(神仏習合思想が発達したもので、神の本地は仏であり、人々を救うために仏が神として現れたという説)によると、十一面観音は客人宮(白山宮)の本地仏であるとされている。〈小川和英〉